家賃滞納の対応手順|督促から明渡しまでの流れ

大家One 代表 野口 真一

野口 真一大家One 運営者

母がマンション2棟を経営。その管理を間近で見てきた経験から賃貸管理SaaS『大家One』を開発・運営しています。

私の母は、マンションを2棟経営する個人大家です。父から引き継いだ賃貸経営を長年ひとりで切り盛りしてきました。その様子を子として間近で見てきて、いちばん「これは怖いな」と感じたのが家賃の滞納です。滞納そのものよりも、通帳を見返すまで滞納に気づけない、気づいても何をどの順番でやればいいのか分からず時間だけが過ぎていく——この二つが、事態を取り返しのつかないところまで運んでしまうからです。

この記事では、家賃滞納が発生したときに大家さんが「何日目に、誰に、何をするか」を時系列で整理します。あわせて、やってしまいがちだけれど法的に危険な行為、連帯保証人や家賃債務保証会社への連絡の順序、内容証明郵便の使いどころ、契約解除や明渡しに進む場合の裁判手続きまで、公的機関が公開している一次情報をもとに解説します。

家賃滞納は「起きる前提」で備えるもの

まず前提として、家賃滞納はどんなに良い物件でも、どんなに丁寧に入居審査をしても一定の確率で発生します。公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会が会員の管理会社を対象に実施している賃貸住宅景況感調査「日管協短観」でも、入居率と並んで滞納率が定点観測の調査項目として設けられています。プロの管理会社が集計対象になってなお、滞納は継続的に測るべき指標として扱われているということです。

つまり滞納は「うちの入居者に限って起きない例外」ではなく、賃貸経営の通常業務のひとつです。起きてから慌てて手順を考えるのではなく、あらかじめ段取りを決めておく。それだけで、回収できる金額も、費やす精神的な負担も大きく変わります。

初期対応の速さが、その後のすべてを決める

滞納対応で最も重要なのは、初動の速さです。理由は3つあります。

1つ目は、金額が小さいうちなら入居者が払える可能性が高いことです。1か月分なら給料日に何とかなっても、3か月分がまとまると、もはや現実的に払えない額になります。滞納は放置した分だけ雪だるま式に回収困難になります。

2つ目は、家賃債務保証会社を利用している場合、代位弁済(保証会社が入居者に代わって家賃を立て替えること)を請求できる期限が保証委託契約で定められていることが多いためです。「滞納発生から◯日以内に保証会社へ通知すること」といった条件を過ぎると、保証があるのに使えないという最悪の事態になりかねません。契約内容は保証会社ごとに異なるので、平時のうちに保証契約書を読み返し、通知期限を確認しておいてください。

3つ目は、後述する法的手続きに進む場合、「大家として適切に催告してきた」という記録が判断材料になるためです。いつ、どんな方法で、どう伝え、相手が何と答えたか。この積み重ねが、最終的に契約解除の正当性を支えます。

時系列で見る、家賃滞納の対応手順

以下は、家賃債務保証会社または連帯保証人が付いている一般的な居住用賃貸借を想定した標準的な流れです。実際の期限や順序は契約書の定めによって変わるため、必ずご自身の契約書と保証委託契約書を確認しながら進めてください。

入金予定日の翌日(0〜1日目):事実を確認する

まず「本当に未入金なのか」を確認します。ここを飛ばして連絡すると、実は振り込まれていた・別名義で入金されていた、という取り違えが起き、入居者との関係を無用に悪化させます。通帳やネットバンキングの入出金明細と、その月の請求内容を突き合わせてください。振込手数料の差額分だけ足りない、というケースもあります。

確認できたら、その時点で「◯月分家賃・◯円・◯月◯日時点で未入金」と記録を残します。この一行が、後々の催告書や訴訟資料の土台になります。

3〜7日目:まずは穏やかに連絡する

最初の連絡は、督促というより確認の姿勢で行うのが実務的です。うっかり振込を忘れている、口座残高が足りず引落しに失敗していた、といった単純な理由が相当な割合を占めるからです。電話がつながらなければ、留守番電話とSMS、あるいはメールを併用します。

このとき必ず、いつ・どの手段で連絡し、相手が何と答えたかをメモしてください。「◯月◯日15時、携帯へ架電、応答なし・留守電にメッセージ」でも十分な記録になります。連絡がついた場合は、支払予定日を具体的な日付で確認します。「今月中には」ではなく「◯月◯日までに」と決めることが大切です。

8〜14日目:書面での催告と、保証会社への通知

約束した日に入金がない、あるいは連絡がつかないままなら、書面での催告に切り替えます。この段階の書面は普通郵便でも構いませんが、未払額・対象月・支払期限・振込先を明記し、控えを必ず手元に保管してください。

同時に、家賃債務保証会社を利用しているなら、この時点で必ず保証会社へ通知します。前述のとおり通知期限を過ぎると代位弁済を受けられなくなる恐れがあります。なお家賃債務保証業には国土交通省の登録制度があり、一定の要件を満たした業者が登録・公表されています。ただしこれは任意の登録制度で、登録しなくても家賃債務保証業を営むことは可能とされています。業者選びの際は、この公表情報が判断材料のひとつになります。

15〜30日目:連帯保証人へ連絡する

保証会社ではなく連帯保証人を立てている契約では、この時期に保証人へ連絡します。順序として入居者本人への催告を先に行うのは、いきなり保証人に請求すると本人との関係が決定的に壊れ、その後の話し合いが難しくなるためです。ただし本人と連絡が取れない状態が続くなら、保証人への連絡を遅らせる理由はありません。

ここで確認しておきたいのが、保証契約が有効かどうかです。法務省が公表している民法(債権法)改正の解説資料のとおり、改正民法は2020年(令和2年)4月1日から施行されています。この改正により、個人が保証人となる根保証契約では、保証人が負担する上限額である「極度額」を定めなければ保証契約が無効となるルールが導入されました。賃貸借契約の連帯保証はこの根保証にあたります。

ここで間違えやすいのが、いつの契約から適用されるのかという点です。極度額の定めが必要になるのは、保証契約を2020年4月1日以降に新たに締結した場合(更新の際に保証契約そのものを結び直した場合を含みます)です。施行日より前に締結した保証契約は、その後に賃貸借契約が法定更新されても、保証契約を結び直さない限り原則として従前どおり有効とされています。法務省のパンフレット「賃貸借契約に関する民法のルールが変わります」にも、この考え方が整理されています。古い契約だからと請求を諦めてしまう前に、保証契約をいつ結んだものかを確認してください。

国土交通省が公表している「賃貸住宅標準契約書」には、家賃債務保証業者型と連帯保証人型の2種類があり、連帯保証人型には極度額の記載欄が設けられています。古い書式のまま使い続けている場合は、この機会に見直しておくことを強くおすすめします。

1〜2か月目:内容証明郵便による催告

任意の連絡で解決しないまま滞納が1〜2か月に達したら、内容証明郵便による催告に進みます。日本郵便の説明によれば、内容証明とは「いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたか」を差出人が作成した謄本によって証明するサービスで、証明されるのは内容文書の存在であり、その内容が真実であるかどうかを証明するものではありません。一般書留とする必要があり、差出人は差し出した日から5年以内に限り謄本の閲覧ができます。

つまり内容証明は「催告した事実」を第三者に証明できる手段です。後の裁判で「催告を受けていない」と争われることを防げますし、受け取った側にとっては事態が正式な段階に入ったという明確なシグナルになり、これをきっかけに支払われることも珍しくありません。記載すべきは、未払家賃の対象月と金額、支払期限、期限までに支払われない場合は契約を解除する旨です。文面の作り方に不安があれば、弁護士や司法書士に相談してください。

3か月目以降:契約解除と法的手続きの検討

滞納が3か月分に達すると、契約解除を現実的に検討する段階です。賃貸借契約の解除については、判例上「信頼関係破壊の法理」という考え方が確立しています。賃貸借は長期にわたって当事者の信頼関係を前提とする契約であるため、契約書に「1か月でも滞納したら解除できる」と書いてあっても、直ちに解除が認められるわけではなく、大家と入居者の信頼関係が破壊されたと言える程度に至って初めて解除が有効と判断される、という枠組みです。実務では滞納3か月程度が一つの目安として語られますが、これはあくまで目安であり、滞納の理由、過去の支払状況、催告への対応など個別の事情を総合して判断されます。

家賃滞納と明渡しの関係については、独立行政法人 国民生活センターが発行する「国民生活」2024年10月号(No.146)の「暮らしの法律Q&A」に「家賃を滞納したら、部屋を明け渡さなければならない?」という解説記事が掲載されています。入居者側の視点から書かれた解説ですが、大家として相手がどのような情報に触れているかを知っておく意味でも、目を通しておく価値があります。

絶対にやってはいけない対応(自力救済の禁止)

ここが本記事で最もお伝えしたい部分です。日本の法律では、裁判所の手続きを経ずに自分の力で権利を実現する「自力救済」は原則として禁止されています。滞納されている側である大家が正しいはずなのに、対応を誤ると今度は大家の側が責任を問われる立場になってしまいます。

具体的に、次のような行為は違法と判断される恐れがあります。

  • 玄関の鍵を交換する、シリンダーに細工をして室内に入れなくする
  • 入居者の留守中に部屋へ立ち入り、家財や荷物を運び出す・処分する
  • ドアや共用部の掲示板に「◯号室 家賃滞納」といった張り紙をする
  • 電気・ガス・水道を止める、あるいは止めると告げる
  • 深夜・早朝に繰り返し訪問する、大声で退去を迫る
  • 勤務先や親族に滞納の事実を言いふらす

これらは損害賠償請求の対象になり得るほか、態様によっては刑事責任が問われることもあります。関連して、適格消費者団体が家賃債務保証業者の契約書の使用差止めを求めた訴訟では、滞納時に無催告で契約を解除できるとする条項や、一定の要件のもとで明渡しがあったとみなす条項が、消費者契約法10条により無効と判断されました(最高裁令和4年12月12日判決)。自力救済そのものの適法性を判断したものではなく、あくまで契約条項の効力についての判断ですが、当事者の合意で明渡しを簡略化しようとする手法に司法が厳しい目を向けていることの表れといえます。

腹立たしい気持ちは、大家の家族として痛いほど分かります。それでも「部屋を取り戻すには裁判所の手続きを経る」という原則を外さないことが、結果として大家さん自身を守ります。

裁判所の手続きにはどんな選択肢があるか

任意の交渉で解決しない場合、目的によって使う手続きが変わります。滞納家賃というお金だけを回収したいのか、部屋を明け渡してもらいたいのかで、進む道が違います。

民事調停:まず話し合いで着地させたいとき

裁判所の説明によれば、民事調停は裁判のように勝ち負けを決めるのではなく、調停委員が間に入って話合いにより合意での解決を図る手続きです。手続が簡単で費用が安く、非公開で行われ、調停が成立すれば調停調書は確定判決と同じ効力を持ちます。分割払いの約束をきちんと書面として残したい、関係を壊さずに解決したい、という場面に向いています。

支払督促:書面審査だけで進められる回収手続き

支払督促は、債権者の申立てに基づき裁判所書記官が書類審査のみで支払を命じる手続きで、訴訟のように審理のため裁判所に出向く必要がありません。債務者が受け取ってから2週間以内に異議を申し立てなければ、仮執行宣言を経て強制執行の申立てができます。ただし異議が出れば通常の民事訴訟へ移行します。相手が争ってこない見込みが高い滞納家賃の回収では、負担の軽い選択肢です。

少額訴訟:60万円以下の滞納家賃を早く回収したいとき

少額訴訟は60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて、原則として1回の審理で紛争解決を図る手続きです。最初の期日までに原告のすべての言い分と証拠を提出する必要があり、利用回数は1人につき同じ裁判所に年間10回までと制限されています。滞納家賃が60万円以下におさまる段階で動けば選べる手段であり、これも「早く動くほど選択肢が多い」ことの現れです。なお少額訴訟で求められるのはお金の支払いだけで、部屋の明渡しは請求できません。

明渡訴訟と強制執行:部屋を返してもらう最終手段

部屋の明渡しを求めるには、通常の民事訴訟を提起します。裁判所の説明のとおり、民事訴訟は訴状の提出に始まり、公開の法廷での口頭弁論、争点と証拠の整理、証拠調べを経て判決に至ります。途中で和解により終了することもあり、判決に不服があれば送達日から2週間以内に控訴できます。滞納家賃の支払いと明渡しを一つの訴訟で同時に請求するのが一般的です。

判決が確定しても入居者が出ていかない場合は、強制執行に進みます。不動産引渡(明渡)執行は、判決などの債務名義に執行文の付与と送達証明を備えたうえで、物件所在地を管轄する地方裁判所の執行官に書面で申し立てます。執行官は申立てがあった日から2週間以内の日に債権者と協議して執行開始の日時を定め、明渡しの催告を行い、引渡しの期限は原則として催告があった日から1か月を経過する日とされています。期限までに退去がなければ、占有を解いて債権者に引き渡す断行が行われます。

ここまで来るとどうしても時間と費用がかかります。だからこそ、初期対応の数日間が重いのです。

滞納を防ぐのは、日々の「記録」

最後に、そもそも滞納を長引かせないための日常の備えについて触れておきます。母の管理を見ていて痛感したのは、滞納対応の巧拙は、法律の知識より前に「記録が残っているかどうか」でほぼ決まるということでした。

必要な記録は、突き詰めると次の4つです。

  • 誰に、いくら、いつまでに請求しているか——部屋ごと・月ごとの請求額が一覧で見えること。
  • 実際にいくら入金されたか——請求と入金の突合(消込)が済んでいること。一部入金や振込手数料差引きも記録に残すこと。
  • 誰が何か月分遅れているか——滞納が発生した瞬間に気づける状態にあること。
  • いつ、どんな連絡をしたか——催告の履歴が日付つきで残っていること。

紙の通帳と手書きの台帳でもこれは実現できます。ただ、部屋数が10を超えたあたりから、毎月の突合作業が現実的な負担になります。母も、月末になると通帳とノートを何度も往復しながら照合していました。見落としが起きるのは、注意力の問題ではなく、単純に作業量の問題です。

契約・請求・入金をひとつの画面で管理し、未入金が自動で色分けされて見えるようにしておけば、「気づいたら3か月滞納していた」という最悪のパターンは構造的に防げます。私たちが開発している賃貸物件管理SaaS「大家One」は、まさにこの一次体験から生まれました。請求書の自動生成、入金の消込、滞納者の一覧表示までを一つにまとめ、小規模な個人大家さんがひとりでも回せることを目指しています。

おわりに

家賃滞納への対応は、「早く動く」「感情ではなく手順で動く」「記録を残す」の3つに尽きます。滞納が発覚したその日に事実を確認し、数日以内に穏やかに連絡し、2週間で書面と保証会社、1か月で保証人、2か月で内容証明、3か月で法的手続きの検討。この段取りをあらかじめ決めておくだけで、いざというときの迷いはかなり減ります。

そして、鍵を替える・荷物を出す・張り紙をするといった自力救済にだけは踏み込まないこと。正しい立場にいる大家さんが不利になってしまうことほど、もったいないことはありません。

参考にした情報源

※本記事は情報提供を目的とした一般的な解説であり、法的助言ではありません。契約解除の可否、催告書の文面、訴訟提起の判断など個別具体的な対応については、必ず弁護士・司法書士などの専門家にご相談ください。お近くに相談先がない場合は、各地の弁護士会の法律相談センターや法テラスの窓口もご利用いただけます。

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