賃貸管理とは?自主管理と管理委託の違い・費用相場を解説

野口 真一(大家One 運営者)
母がマンション2棟を経営。その管理を間近で見てきた経験から賃貸管理SaaS『大家One』を開発・運営しています。
私は今、小規模な個人大家さん向けの賃貸管理サービスを作っています。この仕事を始めたきっかけは、実家の話でした。私の母はマンションを2棟経営しており、その管理の様子を長年そばで見てきたのです。
母は決して不動産のプロではありません。もともとは会社員で、たまたま相続の関係で物件のオーナーになりました。最初のうちは何もかもが手探りで、家賃の入金確認を通帳とにらめっこしながら手作業でやったり、入居者からの水漏れの電話を夜中に受けて慌てて管理会社に連絡したり、退去のたびに「このクロスの汚れは入居者負担なのか、経年劣化なのか」で頭を悩ませたりする姿を、私は間近で見てきました。管理会社に委託してからも、報告書の見方が分からず私に電話で聞いてくることが何度もありました。
こうした経験から強く感じるのは、「賃貸管理」という言葉が指す範囲は、思っている以上に広く、かつ属人化しやすいということです。この記事では、賃貸管理業務の全体像、自主管理と管理委託の違い、賃貸住宅管理業法で変わったこと、そして高齢の大家さんや小規模大家さんがつまずきやすいポイントを、公的機関の一次情報に基づいて整理します。
賃貸管理とは何か——業務の全体像
賃貸管理業務は、大きく分けると次のようなフェーズに分かれます。
1. 入居者募集
空室が出れば、不動産仲介会社への物件情報提供、内見対応、広告費の調整などが発生します。空室期間が長引くほど収益に直結するため、大家にとって最も気を揉む工程の一つです。
2. 契約締結
入居希望者が決まれば、賃貸借契約書の作成、重要事項の説明、連帯保証人や保証会社の手配、敷金・礼金の授受などを行います。契約書のひな形として、国土交通省は「賃貸住宅標準契約書」を公表しており、参考にする大家さんも多いです。
3. 家賃収納・滞納対応
毎月の家賃入金確認、未入金者への督促、滞納が長期化した場合の法的手続き検討まで含まれます。私の母のケースでも、この「入金確認と消込」が地味ながら最も手間のかかる作業でした。銀行口座から誰がいくら振り込んだかを一件ずつ照合する作業は、部屋数が増えるほど負担が増していきます。
4. クレーム・修繕対応
水漏れ、設備故障、騒音トラブルなど、入居者からの連絡は昼夜を問わず発生します。緊急性の高い設備故障(給湯器の故障や漏水など)は、対応が遅れると入居者との信頼関係やクレームの深刻化につながります。
5. 原状回復・退去精算
退去時には室内を確認し、敷金からどこまで差し引くかを判断します。ここは最もトラブルになりやすいポイントで、国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表しています。このガイドラインでは、通常の使用による損耗(通常損耗)や経年変化は、賃料の中に含まれるものとして扱われ、借主の負担にはならないという考え方が明確に示されています。原状回復とは、借主の故意・過失や善管注意義務違反、通常の使用を超える使用による損耗を復旧することに限定され、「借りた当初の状態に完全に戻すこと」ではありません。母が退去精算のたびに悩んでいた「このクロスの黄ばみは入居者負担か」という問題も、実はこのガイドラインに沿って判断すべき典型例でした。
6. 更新・契約管理
契約期間満了時の更新手続き、賃料改定の検討なども管理業務の一部です。賃貸借契約の存続期間や更新拒絶の要件などは、民法の特別法である借地借家法(e-Gov法令検索)に定めがあります。
このように、賃貸管理は「家賃を受け取って終わり」ではなく、募集から退去精算までを通した一連の業務プロセスです。
自主管理と管理委託——違い・メリデメ・費用相場
賃貸管理の進め方には、大きく分けて「自主管理」と「管理委託」の2つの選択肢があります。
自主管理
大家自身がすべての業務を行う方式です。
- メリット: 管理委託料がかからず収益性が高い。入居者との距離が近く、物件の状態を細かく把握できる。
- デメリット: 昼夜を問わないクレーム対応や、専門知識が必要な契約書・法令対応まで自分でこなす必要がある。1〜2棟程度の小規模であれば可能でも、部屋数が増えると急速に負担が重くなる。
管理委託
管理業務の一部または全部を管理会社に委託する方式です。国土交通省は平成30年、管理受託契約の標準的な内容を定めた「賃貸住宅標準管理委託契約書」を策定しており、実際の契約書PDFも公開されています。委託する業務範囲や報酬、解除条件などが個々の状況に応じて記載される設計になっており、契約前にどこまでを委託するかを明確にしておくことが重要です。
- メリット: 入居者対応・修繕手配・家賃督促などの実務を任せられる。管理会社が持つ入居者募集のネットワークやトラブル対応のノウハウを活用できる。
- デメリット: 管理委託料が発生する。管理会社によって対応品質にばらつきがあり、報告内容がブラックボックス化しやすい(母のケースのように、報告書を見ても状況が把握しづらいことがある)。
費用相場
管理委託料の相場は諸情報を総合すると、月額家賃収入のおおむね3〜5%程度が目安とされ、入居者募集の広告対応やトラブル対応、定期巡回まで含む広範な業務を委託する場合は5%を超えることもあります。ただし委託範囲・地域・物件規模によって幅があるため、契約前に「どの業務がいくらに含まれるのか」を必ず確認することが欠かせません。
賃貸住宅管理業法で何が変わったか
令和2年6月、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(賃貸住宅管理業法)が公布され、サブリースに関する規定が令和2年12月、賃貸住宅管理業に係る規定が令和3年6月にそれぞれ施行されました。この法律は、賃貸住宅管理を巡るトラブルを防止し、良好な居住環境を確保するとともに、不良業者を排除して業界の健全な発展を図ることを目的としています(国土交通省 賃貸住宅管理業法ポータルサイト)。
主なポイントは次のとおりです(国土交通省の制度解説より)。
- 登録制度: 管理戸数が一定規模以上の管理業者には登録が義務付けられます。200戸未満の小規模業者は任意登録ですが、社会的信用力の観点から登録を受けることが推奨されています。
- 業務管理者の設置義務: 登録業者は、営業所・事務所ごとに知識・経験を有する業務管理者を1名以上配置しなければなりません。
- 重要事項説明義務: 管理受託契約の締結前に、オーナーに対して管理業務の内容・実施方法などを書面で説明することが義務付けられています。
- 財産の分別管理義務・定期報告義務: 入居者から預かった敷金等をオーナーの財産と分別して管理すること、業務状況を定期的に報告することも求められます。
これらは、大家が管理会社を選ぶ際の重要な判断材料になります。管理会社が登録業者かどうか、重要事項説明をきちんと行っているかは、契約前に必ず確認したいポイントです。なお制度の詳細や運用は改正・解釈により変わることがあるため、実際の契約検討にあたっては最新の国土交通省資料や専門家(宅建士・弁護士等)への確認をおすすめします。
高齢の大家・小規模大家がつまずきやすいポイントと対策
母の管理を見てきた中で、特に「これはつまずきやすい」と感じたポイントを3つ挙げます。
1. 家賃の入金確認がブラックボックス化する
通帳とExcelで手作業管理していると、誰がいつ入金したか、誰が滞納しているかの把握に時間がかかります。特に複数の口座・複数の物件を持つ場合、月末になるたびに確認作業に追われる状態になりがちです。専用のツールやサービスで自動的に消込を行う仕組みを整えると、この負担は大きく減らせます。
2. 管理会社とのやり取りが「お任せ」になりすぎる
管理委託は便利な反面、任せきりにすると「今、自分の物件がどういう状態にあるか」を大家自身が把握できなくなります。母も、管理会社からの月次報告書を見ても、空室の理由や修繕の必要性を正確に理解できないことがよくありました。委託していても、最低限の収支・入居状況は自分でも確認できる状態にしておくことが望ましいです。
3. 相続・引き継ぎ時に情報が散逸する
契約書、入居者情報、修繕履歴などが紙やバラバラのファイルで管理されていると、子世代が引き継ぐ際に全体像を把握するだけで大変な労力がかかります。これは特に、高齢の親から物件を引き継ぐ立場の方に共通する課題です。
こうした課題は、賃貸管理を「見える化」し、日々の作業を仕組み化することである程度解消できます。私自身、母の管理をそばで見てきた経験から、家賃の入金消込や空室状況の一覧化、契約情報の一元管理を、専門知識がなくても扱えるシンプルな形で提供したいという思いで、賃貸管理SaaS「大家One」を開発しています。もし自主管理や管理委託の管理方法を見直したいと考えている方がいれば、選択肢の一つとして知っていただければ幸いです。
参考にした情報源
- 国土交通省 賃貸住宅管理業法ポータルサイト「制度解説」
- 国土交通省 賃貸住宅管理業法ポータルサイト
- e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」
- 国土交通省 報道発表「賃貸住宅標準管理委託契約書」を策定しました
- 国土交通省「賃貸住宅標準管理受託契約書」(PDF)
- 国土交通省 住宅:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
- 公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(日管協)協会概要
- e-Gov法令検索「借地借家法」
あわせて読みたい
紙とExcelの管理から、そろそろ卒業しませんか
大家One は、契約・入金・空室・コストをまとめて見える化する、
小さな大家さんのための賃貸管理サービスです。